File.4「襲撃」


「だーかーらー! あたしを自由にしなさいよっ」
 大きな街道。まだ煙の立ちのぼる村をあとにし、一行は本来の目的であるはずの港へ向かっていた。村に来たときとは違い、同行者がひとり増えてはいたが。
 
 大きな声の発生源は、一行の真ん中にぷかぷか浮かぶちいさな精霊――ティアフラム。
「さっきからぎゃあぎゃあうっとうしい」
 エディはさもうるさそうに――まるで虫でも相手にするように手ではねのけている。
「うるさいのは誰のせいだと思ってんのよっ! あんたが原因なんじゃないのっ!」
 これみよがしに耳元で叫びだした火の精霊相手にエディも同じように叫び返す。
「そもそもはっ! 君がっ! 何の罪もない村を危険に陥れたのがっ! いけないんだろっ! これぐらいで済んでありがたいと思えっ!」
「なあにようっ、えっらそーにっ。大体、力まで封じることはないじゃない。あたし、これからどうしたらいいのよっ!」
 


「ありゃあ、子どものけんかだなあ」
「そうねえ、小さい子どもみたいですわ」
 いつの間にか、本格的な口げんかに発展してしまったふたりを呆れて見つめるデルディスと、くすくす笑うファー。
 予想外の連れができて、とまどいもあったが、こういうのもたまにはいい。急ぐ旅でもないのだ。
「エディ、それからちっこいの、お前。いい加減にしないと日が暮れちまう」
 エディの首根っこをひっつかみ、浮いているティアフラムをつまみ上げ、デルディスがふたりを引き離した。
「デル、放せ! ひとことこいつに言ってやらないと!」
「はいはい」
「もう、何すんのよぅっ! 放しなさいよバカ! それにあたしはちっこいのでもお前でもない!」
「俺はバカじゃない。ちゃんとデルディスって名前がある。えーと、ティ……面倒だな、ティー、少し黙ってろ」
 まだぎゃあぎゃあと何かを言っているティアフラムを、デルディスはぽいと軽くファーの方へと投げる。
「もうっ! もうちょっと丁寧にあつかいなさいよねっ!」
「ティー……って呼んでいいかしら? こんなに可愛い精霊さんと知り合いになれて、わたくしは嬉しいわ」
 器用にティアフラムを受け止め、ファーがそう、にっこりとほほえみかける。
 それを聞いたとたん、にへら、とティアフラムの顔が崩れた。
「あら、あんたは結構いい目してるじゃない」
 ふふふ、と機嫌を直して笑うティアフラムに、また優しくほほえむファー。
「できればわたくしのこと、ファーって呼んでね。仲良くしましょうね」
 その彼女の目の端で、デルディスがよくやったとばかりに片目をつぶったのが見えた。
 

「大人げないなあ、お前も。軽くあしらえばどうってことないのに」
 後ろで話しに花を咲かせる女性ふたりを振り返り、まだ興奮さめやらぬエディをたしなめる。
「だって、あんまりあいつが……」
 ぶすっ、とした表情に、忍び笑いのデルディス。横から聞こえるくっくっく……というその声にエディは眉をつり上げた。
「何だよ」
「いーや」
 なおも忍び笑いを続けるデルディスに、たまりかねてさらに言いつのろうとしたとき。
「なあ、しばらく、メルについていてもらった方が良かったんじゃないのか?」
 不意に立ち止まり、デルディスが剣に手を伸ばす。
「は? ……いやだって、メルだって始終僕についているわけにはいかないだろうし」
 メルディースは、村での一件が片づいたあと、ひとまず安心ですね、と帰ってしまっていたのだ。
「それに、僕はもうそんなおもりなんて必要ないし!」
「本当かあ? 大体、お前、追っかけられてるの気づいてないだろ」
「え……あ、ほんとだ。……困ったなあ、やっぱりメルにいてもらったほうが苦労は少ないのかも……」
 意識を集中させると。かすかに、何者かの気配がちらほらと。
 仕方なく、街道の脇に逸れ、デルディスもエディも、構えをとる。
 後ろから追いついたファーも、しょうがないですわね、と困ったように準備をする。
「え? え? え? なになに、いったい何なのよっ」
 独り訳のわからないティアフラムだけが、おろおろと宙に浮いている。
「ちょっと黙って、下手するとねらわれる」
「何よっ」
 ぐい、とティアフラムを押しのけたそのすぐあとに光るナイフが飛んできた。
 

「ち! いつまでたっても追いかけてくる!」
 別方向からかけだした何者かを、剣を抜きざま切り捨てる。灰色の瞳が鋭く輝く。いきなりの襲撃者は十人ほど。みな、現実と夢の狭間にいるような、かすかな気配。
「しょうがないだろっ! 感情も何もない、ただ目的を遂行するためだけに育てられるんだ! 個も何もない、みんな道具なんだ!」
「そう……ならひと思いにしてあげた方が、ある意味楽なのですわね……可哀想に」
 飛んでくるナイフをよけつつ、軽いかまいたちを出して応じるエディと、薄布を巧みに使い、短剣で応じるファー。軽くあしらうように見えるのは、慣れているせいなのか。
 デルディスは素早い動きでエディに向かってくる相手を、その直前で食い止め、なぎ払い、独りで大多数を引き受けている。向かってくる、無機質の目をした相手が、そのまま、くずおれる。
「や……何これ……」
 おびえたようにふらふら漂うティアフラムにも、やはりひとり、悟られぬまま背後より。
「危ない!」
 ひゅ。音を立てて背後の人物の喉元にナイフが刺さった。
「何すんのよバカ! 危ないじゃないのっ……あ……」
 自分のすぐ横をかすめたそれに、投げた人物――エディに罵倒の声を浴びせる。背後の異常に気づき、振り向いたところには、命を失っただれか。
「きゃーーっ!」
「うるさい! 少しは黙っておとなしくしてろ! せっかく助けたのに礼の言葉もないし!」
「何よバカ!」
「バカはどっちだ!」
「お前らいい加減にしないかっ! 状況わかってんのか!?」
 最後のひとりをようやく片づけ、時ならぬけんかを始めてしまったエディとティアフラムを、デルディスが引き離した。
 

「大体、なによいきなり、こいつら!」
 屍を前に、興奮気味に問いつめるティアフラム。
「あたしこんなの聞いてないわよ! ……というか。こんなことまっぴらごめんなんだから、いきなりおそわれるなんて! こいつら何者!?」
「僕と同じ、ジールヴェだよ」
「え?」
 ひとりひとり、あけられたままの目を閉じ、手を祈りの形に組んで。
「気配、僕と同じように薄かったろ? ……それを利用されている、暗殺者なんだよ」

 

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