Egg Shell あら すじ

第一章
 度重なる環境破壊やいつ終わるとも知れぬ国家間の戦争。地球はその時、滅亡の危機にあった。それを憂えた一握りの者たちが、「せめて未来を生きる子どもたちだけは」と、とある計画を立てた。それが「Egg Shell」計画。全ての争いごとから子どもたちを引き離し、以って滅亡の危機を回避しようというこころみである。
 折りしも、人間を憎んでやまない「Dr.ウインド」なる存在が世界に火花を投げ入れていたこともあり、計画は急いで進められていく。
 そして、優れた技能を持つものとコンピューターで無作為に選ばれたもの、それぞれ〇歳から十八歳までの子どもたちが親元から引き離され、巨大シェルター「Egg Shell」へと収容された。
 扉が封印されて以降十二年、シェルターは一度も開くことはなく、子どもたちはその人工の環境の中で大人になりつつあり、新しい世代も生まれ始めていた。

 情報管理エリアに属するショウは、その末端の資料保存室管理が仕事の十七歳の少女だった。彼女は無作為に抽出されたごく普通の子どもであり、少なからず、優れた技能を持ついわゆる「選ばれた」者に対してのコンプレックスを抱いている。しかし、ショウの友人には機械調整エリアのリーダーであるヒロや植物エリアのメイをはじめ「選ばれた」者もいたためか、それを表に出すこともあまりなかった。
 しかし、Egg Shell管理者であるアキの要請により携わった仕事において、「選ばれた」者とそうでないもの間に広がるへだたりに気づき、ショウは愕然とする。
 そんな折、管理者アキはショウを呼び出し、彼女に自分の補佐として働いてもらうことを宣言する。ショウはもちろんのこと、「選ばれた」者中心で構成される管理エリア中枢のメンバーにもそれは大きな衝撃を与えた。
 アキは「Egg Shell」を立ち上げた最高責任者の息子であり、「選ばれた」者の筆頭ともいえる存在だった。その彼の補佐をするのがごく普通の少女であることが、皆は信じられなかったのだ。
 何の技能も持たないショウにそんな大役は務まらないとメンバーたちは彼女に冷たい視線を投げかけ、必要以上にそれを意識したショウはアキやメンバーたちの足を引っ張る結果になっていた。
 しかし、久しぶりに会った友人のヒロとの会話により、自らのコンプレックスやEgg Shellの問題に気づいたショウは、悩んでいた気持ちを振り切って、自分自身の力で精一杯やっていこうと決意する。
 その気持ちが伝わったのか、今までショウを口さがなく言っていたものたちも少しずつ、彼女を受け入れていった。
 それから一年が経ち、補佐としての力も身についたショウは、補佐をこれからも続けていくという決意を伝えるためにアキのもとを訪れる。
 しかしそのアキはショウに管理者の地位を譲るというメッセージを残したまま、姿を消してしまっていた。

第二章
 アキが姿を消したことにより、管理エリアは大混乱となる。管理者という地位を譲るというメッセージにも驚きを隠せない皆。考えた末、ショウたちはこの事実を公表することなく、また管理者の地位もそのままでアキの捜索をおこなうことに決めた。
 しかしひた隠しにされるべき事実は「管理者アキの不在」という噂となってEgg Shellの中に影のように広まり始める。

 植物エリアのリーダーであるハルは、「管理者不在」という噂をスタッフのひとりであるメイから聞き、悩みを深くしていた。なぜなら、その不在であるはずの管理者・アキから彼宛の極秘メッセージが届いていたからだった。
 曰く、「Egg Shell解放計画」に力を貸して欲しい、と。そしてそのメッセージには、誰にも知られてはならないはずの、ハルの過去、そして父についてのキィワードが記されてあった。
 メンバーたち、特に密かに思いを寄せているメイに自分の過去を知られたくなかったハルは、そのメッセージと前後して現れた女性・ファムに連れられてEgg Shell内部の区域へと向かう。そこには、Egg Shellから姿を消していた管理者アキの姿があった。
 ハルの過去を引き合いに出し、「Egg Shell解放計画」への協力を迫るアキとファム。
 「解放」と名はつくものの実質Egg Shellを滅ぼしかねないその恐ろしい計画に、はじめは抵抗の意を示すハルだった。しかし、結局は自らに秘された過去に屈し、従うことを了承してしまう。
 その事実をひた隠しにしようとするハルだったが、偶然によりいちばん知られたくなかったメイの知るところとなってしまう。過去が気になって言い訳もできずにいるハル。メイはそんな彼に激しい感情をぶつけ、手を振り払ってしまう。思いつめた彼は植物エリアのリーダーを退き、姿を消してしまった。
 ハルが本格的に加わったことにより、「Egg Shell解放計画」はその速度を増してゆく。
 しかし計画を遂行する側の中に微妙な、そして致命的ともいえるずれが生じ始めていた。
 ファムを想うあまりに盲目的に彼女に従い、その優れた能力を行使するのにためらいがないアキ。
 ひたすら待ち望んでいた「解放」の日を目前にしてはじめて、自分の中に違う思いが生まれているのを知り戸惑うファム。
 そして、ただ唯々諾々と計画に従っているわけではないらしいハル。

 「管理者不在」の噂は広まりつづけ、もはや抑えるのが難しい頃になっていた。その対策に追われるショウはある日、管理者専用端末の中にあった外界との通信記録を見てしまう。その記録によればもう十一年も前に、外界からの連絡は途絶えていた。それはすなわち、外の世界が滅んでしまったであろうことを意味する。
 ショウのことを密かに想い心配してやってきたヒロもその事実を知り、ふたりそろって絶望に打ちひしがれる。
 別の手段によって同様の情報を目にしていた教育統括者のリアリィの気遣いも功を奏することなく、ただ呆然とするショウたち。
 が、偶然発見されたディスクにより、転機が訪れる。
 Egg Shellの憩いの場たる広間に収められていたそのディスクは、「Egg Shell」計画に携わった研究者のひとり、ヒロの父によって作られたものだった。そのディスクには、外界との連絡が途絶えてしまった事態を予測し、その後の対策について記してあった。
 外界での生存が可能であればEgg Shellより出て、新たな人類の祖となること。
 それが無理であればシェルター内に隠された宇宙船により地球を出て、放り出されたままになっている廃園――緑化の進みつつある火星へ向かうこと。
 ここになってはじめて「Egg Shell」の隠された意図が明らかになり、わずかな希望を求めてショウたちは動き出すことになる。
 切り札であるその計画を実行するためには、真実を告げることが必要不可欠であった。
 そのため、ショウはまず自らの属する管理エリアにおいて、連絡が途絶えたこと、そして残された切り札があることを伝える。一時は混乱しかけた管理エリアだが、ショウの強い決意を知り、皆彼女に従うことを受け入れる。
 シェルター内各業務を担当するそれぞれのエリアのリーダーにも同じことを伝え、いよいよ全住民に事実を伝えることになったその時、突然シェルター内の電力がダウンし、Egg Shellは闇に包まれる。
 それと同時に、「選ばれた」者たちに反感を抱いていた少数の住民がEgg Shellを出て行こうと叛乱の声を挙げ、シェルター内はとてつもない混乱に巻き込まれることになる。

第三章
 姿を消したアキを心配していたリアリィはその時、メイを連れてシェルター内のエレベーターにいた。ハルを思うあまりに心を閉ざしかけていたメイは、もういちど問題と向かい合うためにリアリィに同道していたのだ。
 彼女たちが向かうのは、Egg Shellに隠された宇宙船のある中心エリア。閉じこもったままのアキやハルを連れ戻すためだった。
 しかし、電力のダウンによりその道を閉ざされてしまう。暗闇の中、彼女たちはエレベーターの導くまま、最下層へと降り立った。
 扉が開くとそこには、姿を消したままだったハルがいた。
 隠していた全てのこと――ハルの父が悪名高いかの「Dr.ウインド」であること、ファムを操り「解放計画」を打ち立てたのはそのDr.ウインドであること、それを知られたくないがために逃げてしまったこと――をメイに告白する。
 ようやくわだかまりが解け、気持ちを新たにしたハルは、今度は運命に逆らうために中心エリアへと戻ることになる。アキの説得を試みるリアリィもそれに続いた。
 ダウンした電力はヒロたちの努力の甲斐もありしばらくのちに回復する。しかし、完全に回復したわけではないその状況に危機感を抱き、ヒロは単身、問題のうごめくであろう中心エリアへ向かうことにした。

 一方管理エリアのショウたちは、広場に立てこもる叛乱者の対策に追われていた。
 このままでは何も変わらないと確信したショウは、周りのメンバーの反対を押し切って、叛乱者の説得に赴くことを決意する。
 広場にたどり着いたショウはEgg Shellの置かれている現状を語る。すでに外界との連絡は途絶え、待ち望んでいた場所はもはやどこにもない。それでもEgg Shellは全ての親たちの希望の卵として、未来を新しく紡いでいかなくてはならない、と。
 そのために、住民皆の協力が欲しいと訴えるショウだった。
 叛乱者の抵抗により危険にさらされるショウだったが、ショウの思いの強さ、決意に彼らの心も静まってゆき、叛乱に加わった住人たちもその矛先を収めた。
 混乱を鎮め、選ばれたものもそうでないものも気持ちをひとつにしてEgg Shellがまとまった。これから先の未来に向けて、希望を抱くショウたち。
 しかし、中心エリアへ潜ったヒロからの突然の通信により、それがかりそめの平和だったことが明らかになる。Egg Shellは突然の大きな揺れとともに、その構造を分解させた。
 崩壊により気を失っていたショウが、目覚めて気付いたもの、それはまさに惨状としかいいようのない光景だった。その中でショウは行方不明だった管理者・アキの帰還と、そしてヒロを始めとするその他の中心エリアにいた人間たちの生存が絶望的であることを知らされる。